ジョブ理論を活用して、予測可能かつ拡張可能なプロダクト/サービス開発のベースを確立する

もし顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと速い馬が欲しいと答えていただろう。(ヘンリー・フォード)注1)


【対象とする皆様】

  • 現行/新規問わず、プロダクト/サービスに関するイノベーションプロセスを確立したい方々
  • 幅広い領域にわたる顧客の課題を解決するソリューションを構築したい方々
  • 将来にわたる中長期的かつ安定したプロダクト/サービス開発のベースを確立したい方々
  • ターゲットとする顧客のニーズや課題を効果的に収集する方法を確立したい方々
  • プロダクトアウト型からマーケットイン型のマインドセットをもつ人材を育成したい方々

ジョブ理論は、プロダクトやサービスに関するイノベーションを対象とした最も有効な実践的アプローチであるという認識が広まりつつあります。ジョブ理論を分かりやすく説明する有名なフレーズとして、「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」がよく使われています。個人または組織を問わず、また特定のプロダクトやサービスとは関係なく、ターゲットとする顧客が本当に成し遂げたいことに関する洞察をイノベーションプロセスのインプットにする、これがジョブ理論の本質であり、ビジネスモデルキャンバスの顧客セグメントに対してズームインしていくことを意味します。

イノベーションに関する3つの誤解

近年、日本においてもイノベーションという言葉をタイトルに加える組織が増えてきました。しかしながら、イノベーションに関する大きな誤解がまだ残っていることもあるように思います。1つ目は、イノベーションとは技術革新であるという誤解です。本来、イノベーションとは新しい経済価値の創出(目的)を意味するものであり、技術革新はそのための有効な手段です。2つ目は、イノベーションとは新規事業であるという誤解です。実際のところ、欧米の企業の約7割は既存事業におけるイノベーション、つまり現在のターゲット市場における新しい経済価値の創出を対象としています。3つ目は、イノベーションとはアドホックまたは一時的な活動であるという誤解です。製造業務や会計業務にプロセスがあるのと同様に、イノベーション活動にもプロセスがあってしかるべきです。

イノベーションプロセスに関する4つのステージ

デザイン思考と同様、ジョブ理論にも様々なバージョンが存在します。ここでは、「成果指向のイノベーション注2)というジョブ理論の中でも最も体系的なアプローチをベースにご紹介していきます。イノベーションプロセスは、「定義する」「理解する」「発見する」「創造する」という4つのステージから構成されます(図1)。

 

定義する

このステージの大きな目的は、顧客の中核的なジョブをベースとして市場を定義(または再定義)し、潜在的な規模と魅力度を推定することです。例えば、自動車メーカーの場合、「ある場所から次の場所に地上を移動したい人々」を対象とする市場として再定義することができます。自動車(手段)の所有者は今後減少していくかもしれませんが、移動したいという目的をもつ人々は、将来においても安定的に存在することでしょう。安定した市場をベースとし、その上にプロダクトやサービスを進化させていくというマインドセットが生まれます

 

同様に、銀行の住宅ローン事業部にとって、顧客の中核的なジョブは「マイホームを手に入れる」が相応しいかもしれません。なぜならば、資金を調達することは中核的なジョブを成し遂げる上での1つの手段(または1つのステップ)であるからです。

イノベーションプロセスに関する4つのステージ

(図1)イノベーションプロセスに関する4つのステージ

収集する

このステージの大きな目的は、前ステップ(定義する)で定義した市場における全てのニーズと課題に関する洞察を獲得することです。

 

最初に、顧客の中核的なジョブをステップバイステップのプロセスに分解していきます。これは、中核的なジョブを成し遂げることによって顧客が進化または成長したいプロセスを理解するとともに、その過程に内在するニーズや課題を網羅的に収集するためです。

 

新規プロダクトやサービスの構築、既存プロダクトやサービスの拡張を目的とするプロジェクトの場合は、普遍的なジョブステップ(特定のプロダクトやサービスとは関係なく、顧客が中核的なジョブを成し遂げるための一連のステップ)をテンプレートとして活用することができます(図2)。

普遍的なジョブステップ

(図2)普遍的なジョブステップ

一方、現行プロダクトにおける顧客のプロダクト消費プロセスを対象としたイノベーションを目的とする場合は、プロダクト消費に関するジョブステップ(特定のプロダクトからの価値を最大限に引き出すために、顧客がしなければならない一連のステップを示すもの)を活用することができます(図3)。

プロダクト消費に関するジョブステップ

(図3)プロダクト消費に関するジョブステップ

また、現行サービスにおける顧客のサービス受領プロセスを対象としたイノベーションを目的とする場合は、サービス受領に関するジョブステップ(特定のサービスからの価値を最大限に引き出すために、顧客がしなければならない一連のステップ)を活用することができます(図4)。

サービス受領に関するジョブステップ

(図4)サービス受領に関するジョブステップ

次に、各々のステップに関するニーズと課題を、誰もが同じ解釈をすることが可能な統一されたフォーマットで収集することです。顧客のニーズとは「中核となる機能的ジョブを上手く成し遂げることができているかどうかを判断するために顧客が使う指標」であり、課題とは「そのニーズの実現を妨げる制約や障壁」を意味します(図5)。

 

このような顧客のジョブに関する洞察は、特定のプロダクトやサービスとは無関係であるため、将来にわたって大きく変わることがないビジネスモデルの重要なリソース(競合他社が持ち合わせていない、顧客に関する深い洞察という知的リソース)となります。

ニーズと課題の収集フォーマット

(図5)ニーズと課題の収集フォーマット

このステージにおける重要なポイントは、イノベーションの対象領域とその目的を明確にすること(例.新規プロダクト/サービスの構築、既存プロダクト/サービスの拡張、既存プロダクトの消費プロセス、既存サービスの受領プロセス)、ニーズと課題の収集に関する統一的なフォーマットを活用することです。

 

発見する

このステージの大きな目的は、前ステップ(理解する)の中から最も成功オッズが高い市場機会を発見し、プロダクト/サービス戦略の方向づけをすることです。

 

最初に、前ステップで収集された全てのニーズに対する優先付けを、重要度(そのニーズはどれだけ重要か?)と満足度(そのニーズは現在どれだけ満足しているか?)という2つの尺度でマッピングしていきます。このマップの分布を見ながら、当面(今期)のターゲットとする顧客を絞り込み、次にプロダクト/サービス戦略の方向づけをしていきます(図6)。

機会マップによるニーズの優先付け

(図6)機会マップによるニーズの優先付け

例えば、ウーバーのプロダクト/サービス戦略を時系列的に見ると、下図のように解釈することができます(図7)。

ウーバーのプロダクト/サービス戦略の推移

(図7)ウーバーのプロダクト/サービス戦略の推移

このステージにおける重要なポイントは、収集された市場全体のニーズは、中長期的なプロダクト/サービス構築のベースとしながらも、ニーズの優先付けに関するアンケートを毎期実施することです。これを当社では「ジョブ満足度調査」と呼んでいます(顧客満足度調査の代わりとして)。また、中核的なジョブまたはジョブステップを成し遂げるために、顧客が現在どれくらいのコスト(労力や時間含む)をかけているのかを尋ねることも重要です。

 

創造する

最後のステージの大きな目的は、プロダクト/サービスに関するコンセプトやアイデアを創造し、次にそれを評価することです。プロトタイプ生成によるテスト/検証を行う場合、デザイン思考やリーンスタートアップのアプローチを組合せながら活用してみても良いでしょう。

 

これら4つのステージを通じて、予測可能かつ拡張可能なイノベーションを実現し、中長期的には市場全体のニーズを満たすプロダクトやサービスを提供することが実現できるようになるかもしれません。また、中核となるプロダクトやサービスを自社で提供し、プラットフォームを通じて補完財を提供するエコシステムプラットフォームという複合的なビジネスモデルのアイデアも浮かぶでしょう。

注1)米国自動車会社フォード・モーターの創設者

注2)米国コンサルティング企業strategyn社によって提唱されている方法論


【参考リンク】

ミルクシェークの物語(スライドシェア)


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