物理的な世界で顧客を不満にさせると、顧客は6人の友人にその不満を話すかもしれません。インターネット上で顧客を不満にさせると、顧客は6,000人に伝えることができます。(ジェフ・ベソス)
【対象とする皆様】
インターネット、モバイルデバイス、ソーシャルメディアの普及により、この四半世紀の間で、消費者行動の大きな変化が現れました。例えば、実店舗で現物を見て触り、最も安く売っているオンライン店舗で買うショールーミング、プロダクトやサービスをオンラインで検索し、実店舗を訪れてそれを購入するウェブルーミングが代表例です。また、人々が何かを知りたい、見つけたい、観たい、買いたいと思ったときに、反射的にスマートフォンやタブレットに向かうその瞬間を、グーグルはマイクロモーメントという言葉を使いました。顧客経験ジャーニーは、ビジネスモデルキャンバスにおけるチャネルと顧客との関係に対してズームインしていくものです。また、デジタルトランスファメーションにおけるデジタル活用による顧客経験の生成に対する有効なアプローチでもあります。
顧客経験とは、特定のプロダクトやサービスの購買前から購買後に至るまで、顧客自身が企業からどのように取り扱いを受けているのかという視点であり、顧客経験ジャーニーはその一連のプロセスを意味します。顧客経験ジャーニーは、認識、調査、選定、購買、利用、評価という6つのステップをカバーするため、カスタマージャーニーやバイヤージャーニーよりも幅広い消費者行動のコンテキストを提供します(図1)。
(図1)顧客経験ジャーニーに関する6つのステップ
例えば、スマートフォンを考えてみましょう。顧客はある時点において、スマートフォンを買いたい(または買い換えたい)というニーズを認識し、次に入手可能なブランドや機種の情報、販売店舗、友人の意見などを調査するかもしれません(図2)。
続いて、複数の選択肢の中から評価基準に基づいて購買すべき機種や店舗を選定して購買します。その後、顧客は購買したスマートフォンを利用し、使い勝手を友人とシェアするかもしれません。最終的に、購買した機種と企業を評価し、今後継続的にその企業と取引する可能性があるかどうかも評価することがあるでしょう。この一連のプロセスにおいて、顧客が当該企業との交流から自分がどのような取り扱いを受けたのかという視点が顧客経験です。
(図2)認識/調査ステップにおける顧客のジョブ
顧客経験ジャーニーのプロセスは、企業内のプロセスとは異なり直線的ではなく、完結型でもありません。例えば、あるステージにおける企業のとの交流(特定のチャネルやタッチポイントにおける)の中で、顧客が考えていることやしたいと思っていること(顧客経験ジャーニーにおける顧客のジョブ)に対して、企業側の対応に不満を募らせる際(例.異なるチャネルで全く異なるオファリングを受ける、異なるステージで何度も同じことを尋ねられる)、顧客は一時的または永久にその交流を止めてしまうかもしれません。競合他社に乗り換えることもあるでしょう。
デジタル時代における顧客行動の多様化に対応するために、マーケティング部門(および顧客サポート部門)はオフラインチャネルとオンラインチャネル、チャネル内のタッチポイントを組合せ、顧客との交流における適切な関係性をデザインしていなければなりません。顧客経験ジャーニー生成デザインは、「収集する」「分析する」「配置する」「評価する」という4つのステージから構成されます(図3)。
(図3)顧客経験ジャーニー生成に関する4つのステージ
収集する
このステージの大きな目的は、インタビューやアンケートなどを通じて、顧客経験ジャーニー内の各々のステップにおける顧客のジョブとニーズ(例.選択肢の幅を最大化する、選択肢を絞り込むための時間を最小化する)を収集することです。
分析する
このステージの大きな目的は、最初のステージで得られたニーズ全体を分析することによって、顧客をセグメンテーション(例.類似するニーズをもつ顧客同士をグルーピング)し、セグメントごとの顧客行動に関する仮説を設定することです。
配置する
このステージにおける大きな目的は、セグメントごとの顧客行動に沿って、適切なチャネル(およびタッチポイント)と顧客との関係(交流方法)をデザインし、それらを配置することです(図4)。
タッチポイントとは、特定のチャネルにおける具体的な交流ポイントです。物理的な店舗はチャネルであり、スタッフ、メニュー、レジなどはタッチポイントです。同様に、ウェブサイトはチャネルであり、プロダクトやサービスの一覧、ショッピングカート、支払決済ページなどはタッチポイントです。
(図4)チャネル内のタッチポイントにおける顧客の行動
一方、顧客との関係は、上記のチャネルやタッチポイント上における顧客セグメントごとの交流方法を意味します。これらをデザインする際、ハイテクとローテク、ハイタッチとロータッチといった2つの軸で最適なものを検討するとよいでしょう(図5)。
ここでの重要なポイントは、特定のチャネルやタッチポイントにおける顧客との交流から得られたデータや洞察をベースに、タッチポイントテクノロジー(例.チャットボット、拡張現実、センサー)を活用しながら、セグメント毎にパーソナライズ化された顧客経験をデザインしていくことです。
(図5)顧客との交流方法
評価する
このステージにおける大きな目的は、顧客からのフィードバックを通じて、顧客経験ジャーニー全体の客観的な評価することです。最も広く活用されている代表的な評価指標は3つあります。
ネットプロモータースコア(NPS) - 企業が提供するプロダクトやサービスおよびブランドに対する顧客のロイヤルティの度合いを測定する指標であり、「あなたはこれを友人や同僚にどれくらいする推奨する可能性がありますか?」をスコアで評価してもらうというものです。米国のB2C企業の多くが、現在これを採用しています。
顧客労力スコア(CES) - 顧客経験ジャーニー全体または特定のチャネルやタッチポイントにおいて、顧客が感じる労力やストレスの度合いをスコアで評価してもらうものであり、近年大きな注目を浴びている指標です。
顧客満足度スコア(CSAT) - 特定の時点におけるプロダクトやサービスに対する顧客の満足度をスコアで評価してもらうものです。顧客のロイヤルティや企業の収益とはあまり相関がないことにより、採用する企業は減りつつあります。
最後に、一連の顧客経験プロセス全体をデザインするために、顧客経験ジャーニーマップをご紹介します。このマップを活用することにより、顧客経験ジャーニーの6つのステップごとに、顧客のジョブとニーズ、チャネル/タッチポイントにおける顧客の行動、それらのチャネル/タッチポイントから得られたデータ/洞察、タッチポイントテクノロジー、データ/洞察とテクノロジーを組み合わせた顧客との交流方法を描くことができるようになります(図6)。
(図6)顧客経験ジャーニーマップ
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