ビジネスモデルキャンバスを活用して、ビジネスが上手く機能するストーリーを構想する

皆さんが燃え尽きる前に、ビジネスプランを燃やしてしまいましょう。(アレキサンダー・オスターワルダー)注1)


【対象とする皆様】

  • 新規事業の創造/既存事業の変革に関するアイデアを、網羅的かつ効率的にプロジェクトメンバー間で議論するためのツールが欲しい方々
  • 新規事業の創造/既存事業の変革に関するアイデアを、第三者(経営者/出資者)に短時間で効果的にプレゼンテーションしたい方々
  • 新しい事業を興すマインドセットをもつ人材を育成したい方々
  • ビジネスモデルイノベーション(プロダクトイノベーションではなく)に関するアプローチを獲得したい方々
  • 顧客企業のビジネスモデル創造や変革を支援するコンサルタント、システムインテグレーター、テクノロジープロバイダーの方々

ビジネスモデルとは、組織が価値を生成、提供、獲得する方法の論理的根拠を説明するものです。端的に言えば、ビジネスが上手く機能するストーリーです。業績不振に陥っている企業や業界にとっては、ビジネスが上手く機能しなくなった理由を説明するものでもあります。誤解を恐れずに言えば、多くの企業がビジネスモデルを意識することなく事業を行っているのは、事業戦略は異なっていたとしても、業界や業態ごとのビジネスモデルがほぼ類似していたからです。一方で、この四半世紀の間に、アマゾンやグーグルに代表されるように、従来の業界や業態に属することのない新しいビジネスモデルをもつ企業が台頭するようになってきました。 

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルを構成する要素(コンポーネントやビルディングブロックとも呼ばれることがあります)と要素間の内部関係性を可視化する1枚のチャートであり、ビジネスに俊敏性を求める世界中の企業で活用されているデファクトスタンダードツールです(図1)。

 

ビジネスモデルキャンバスは、4つの側面と9つの内部要素から構成されています。

  • 価値自身に関する側面(価値提案)
  • 価値生成に関する側面(リソース、主要活動、パートナー)
  • 価値提供に関する側面(顧客セグメント、チャネル、顧客との関係)
  • 価値獲得に関する側面(収益の流れ、コスト構造)

さらに、ビジネスモデルキャンバスの周辺に、組織のビジネスモデルに作用する4つの外部環境を加えることもできます。それは、以下の4つです。

  • 重要なトレンド(価値の側面に作用 - 例.デジタルテクノロジーの進化と浸透)
  • 業界の圧力(価値生成の側面に作用 - 例.新しいビジネスモデルをもつ新規参入者)
  • 市場の圧力(価値提供の側面に作用 - 例.消費者の購買行動や価値観の変化)
  • マクロ経済の動向(価値獲得の側面に作用 - 例.物価の変動や人材の流動化)
ビジネスモデルキャンバス

(図1)ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルイノベーション

ビジネスモデルのイノベーションとは、ビジネスモデルを構成する要素の新しい組合せによるイノベーション(新しい経済価値の創出)を意味します。プロダクトのイノベーションと対比するために、約30年前のパソコン業界に時計を戻してみましょう。

 

当時、パソコンの急激なコモディティ化に伴い、多くのパソコンメーカーは価格競争と在庫パーツの陳腐化の問題に悩まされていました。新興メーカーであったデルは、当時のパソコンメーカーのビジネスモデルを覆すビジネスモデルのイノベーションを実現しました。デルのビジネスモデルイノベーションのポイントは大きく2つあります。1つ目は、法人およびプロユーザーの焦点を絞り、オンライン上で直接販売をしたことです。2つ目は、顧客の要求するスペックのパソコンを生成するために、注文を受けてから組み立てるというビルトツーオーダー方式を採用したことです(図2)。

創業当時のデルのビジネスモデル

(図2)創業当時のデルのビジネスモデル

典型的に、ビジネスモデルのイノベーションは、前述した4つの側面を基点として検討することができます。

  • 価値自身の側面を基点 - 既存のプロダクトやサービスの大きさ、サイズ、形状、組み合わせ、ポジショニング、概念、常識、ルール、価値を変えることはできないか?(例.スウォッチ、1日保険)
  • 価値生成の側面を基点 - パートナーを含む既存のリソースを有効活用したり、主要活動のプロセスや方法を変えたりすることはできないか?(例.アマゾンAWS、デルのビルトツーオーダー)
  • 価値提供の側面を基点 - 自社や業界がこれまで対象にしていなかった新しいセグメントを顧客や利用者にすることはできないか?(例.任天堂Wii、グラミン銀行)
  • 価値獲得の側面を基点 - 新しい収益の流れ、プライシング方法、キャッシュフロー、コスト構造を変えることはできないか?(例.飲食無料で滞在時間に課金するカフェ、消耗品で稼ぐジレットモデル)

21世紀の代表的なビジネスモデル

ビジネスモデルの最も基本となる原型をアーキタイプと呼ぶことがあります。プロダクト(例.製造業)、サービス(例.人的サービス業)、トレード(例.小売業)は、20世紀における代表的なアーキタイプです。これら3つのアーキタイプが交差する領域に新たなハイブリッド型(複合型)のビジネスモデルが生まれ、21世紀の新たなデジタル経済を牽引していくようになりました(図3)。

 

例えば、プロダクトとサービスが交差する領域がサブスクリプションであり、これはプロダクトをサービスとして継続的に提供することを意味します。オランダのメーカーであるフィリップスが提供する「ライティング・アズ・ア・サービス」、ロールスロイスが提供する「ジェットエンジン・アズ・ア・サービス」はこの代表例であり、多くのメーカーがプロダクトのスポット販売から継続課金型サービスモデルへの転換を急いでいます。

 

書籍のオンライン販売からスタートしたアマゾンもまた、アマゾンプラットフォームという強力なリソースを活かしながら、ハイブリッド型のビジネスモデルを段階的に加えることによって大きな成長をしてきた企業です。同社は、「日常の家庭生活」を支える複合的なエコシステムプラットフォームいうビジネスモデルを構築しています。

 

多くの伝統的な企業にとって、現行のビジネスモデルにハイブリッド型のビジネスモデルを加えることによって新しい成長の機会を発見することができるかもしれません。

ビジネスモデルに関する7つの基本的アーキタイプ

(図3)ビジネスモデルに関する7つの基本的アーキタイプ 注2)

ビジネスモデルデザインに関する4つの視点

新しいビジネスモデルをデザインするための定型的なプロセスは存在しませんが、少なくとも以下の4つの視点を考慮しながらデザインしていく必要があります(図4)。

 

アーキタイプの選択

最初に、ビジネスモデルの原型となるアーキタイプを選択(または仮置き)します。

 

デザイアビリティのデザイン

デザイアビリティとは、「ターゲットとする顧客が本当に欲しいと思っているものを望んでいる方法で提供しているか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおける顧客セグメント価値提案、次にチャネル顧客との関係に対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、イノベーションプロセス顧客経験ジャーニーなどが役立ちます。

 

フィージビリティのデザイン

フィージビリティとは、「その価値を生成するために必要なスキル、能力、技術を持ち合わせているか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおけるリソース主要活動、次にパートナーに対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、インダストリアルインターネット機械学習プロジェクトなどが役立ちます。

 

バイアビリティのデザイン

バイアビリティとは、「その価値を生成および提供する対価として、金銭的な利益を獲得することができるか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおける収益の流れコスト構造に対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、仮説指向計画法などが役立ちます。 

ビジネスモデルデザインに関する4つの視点

(図4)ビジネスモデルデザインに関する4つの視点

ビジネスモデルキャンバスの活用領域

日本においても、一部の組織内でビジネスモデルキャンバスが活用されるようになってきましたが、その活用領域はまだまだ限定的です。例えば、複数の事業部門をもつコングロマリット企業は、各々の事業部門におけるリソースや顧客セグメントを事業部門間で共有できないかをアセスメントするためにビジネスモデルキャンバスを活用することができます。

 

また、新入社員/中途採用社員または外部取締役に対して短時間で効果的に自社のビジネスモデルを説明するために活用することもできます。さらに、多くのコンサルティングファームやシステムインテグレーターにとって、自社のテクノロジーやソリューションが顧客企業のビジネスモデルのどの領域に貢献するのかを、顧客企業と共同で検討するために活用することもできます(図5)。

 

特に、プロジェクトメンバーの間で情報を共有したり、利害関係者(経営者や出資者)にプレゼンテーションしたりする際、ビジネスモデルキャンバスは数十枚に及ぶドキュメントよりも可視性に優れ、利害関係者の理解度が深まるでしょう。 

ビジネスモデルキャンバスに関する8つの活用領域

(図5)ビジネスモデルキャンバスに関する8つの活用領域

注1)スイスのコンサルタント/strategyzer社の創業メンバーであり、ビジネスモデルキャンバスの考案者。

注2)書籍「The Smarter Startup」を参考。 


【参考リンク】

ビジネスモデルデザイン講座(YouTube動画)


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