皆さんが燃え尽きる前に、ビジネスプランを燃やしてしまいましょう。(アレキサンダー・オスターワルダー)注1)
【対象とする皆様】
ビジネスモデルとは、組織が価値を生成、提供、獲得する方法の論理的根拠を説明するものです。端的に言えば、ビジネスが上手く機能するストーリーです。業績不振に陥っている企業や業界にとっては、ビジネスが上手く機能しなくなった理由を説明するものでもあります。誤解を恐れずに言えば、多くの企業がビジネスモデルを意識することなく事業を行っているのは、事業戦略は異なっていたとしても、業界や業態ごとのビジネスモデルがほぼ類似していたからです。一方で、この四半世紀の間に、アマゾンやグーグルに代表されるように、従来の業界や業態に属することのない新しいビジネスモデルをもつ企業が台頭するようになってきました。
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルを構成する要素(コンポーネントやビルディングブロックとも呼ばれることがあります)と要素間の内部関係性を可視化する1枚のチャートであり、ビジネスに俊敏性を求める世界中の企業で活用されているデファクトスタンダードツールです(図1)。
ビジネスモデルキャンバスは、4つの側面と9つの内部要素から構成されています。
さらに、ビジネスモデルキャンバスの周辺に、組織のビジネスモデルに作用する4つの外部環境を加えることもできます。それは、以下の4つです。
(図1)ビジネスモデルキャンバス
ビジネスモデルのイノベーションとは、ビジネスモデルを構成する要素の新しい組合せによるイノベーション(新しい経済価値の創出)を意味します。プロダクトのイノベーションと対比するために、約30年前のパソコン業界に時計を戻してみましょう。
当時、パソコンの急激なコモディティ化に伴い、多くのパソコンメーカーは価格競争と在庫パーツの陳腐化の問題に悩まされていました。新興メーカーであったデルは、当時のパソコンメーカーのビジネスモデルを覆すビジネスモデルのイノベーションを実現しました。デルのビジネスモデルイノベーションのポイントは大きく2つあります。1つ目は、法人およびプロユーザーの焦点を絞り、オンライン上で直接販売をしたことです。2つ目は、顧客の要求するスペックのパソコンを生成するために、注文を受けてから組み立てるというビルトツーオーダー方式を採用したことです(図2)。
(図2)創業当時のデルのビジネスモデル
典型的に、ビジネスモデルのイノベーションは、前述した4つの側面を基点として検討することができます。
ビジネスモデルの最も基本となる原型をアーキタイプと呼ぶことがあります。プロダクト(例.製造業)、サービス(例.人的サービス業)、トレード(例.小売業)は、20世紀における代表的なアーキタイプです。これら3つのアーキタイプが交差する領域に新たなハイブリッド型(複合型)のビジネスモデルが生まれ、21世紀の新たなデジタル経済を牽引していくようになりました(図3)。
例えば、プロダクトとサービスが交差する領域がサブスクリプションであり、これはプロダクトをサービスとして継続的に提供することを意味します。オランダのメーカーであるフィリップスが提供する「ライティング・アズ・ア・サービス」、ロールスロイスが提供する「ジェットエンジン・アズ・ア・サービス」はこの代表例であり、多くのメーカーがプロダクトのスポット販売から継続課金型サービスモデルへの転換を急いでいます。
書籍のオンライン販売からスタートしたアマゾンもまた、アマゾンプラットフォームという強力なリソースを活かしながら、ハイブリッド型のビジネスモデルを段階的に加えることによって大きな成長をしてきた企業です。同社は、「日常の家庭生活」を支える複合的なエコシステムプラットフォームいうビジネスモデルを構築しています。
多くの伝統的な企業にとって、現行のビジネスモデルにハイブリッド型のビジネスモデルを加えることによって新しい成長の機会を発見することができるかもしれません。
(図3)ビジネスモデルに関する7つの基本的アーキタイプ 注2)
新しいビジネスモデルをデザインするための定型的なプロセスは存在しませんが、少なくとも以下の4つの視点を考慮しながらデザインしていく必要があります(図4)。
アーキタイプの選択
最初に、ビジネスモデルの原型となるアーキタイプを選択(または仮置き)します。
デザイアビリティのデザイン
デザイアビリティとは、「ターゲットとする顧客が本当に欲しいと思っているものを望んでいる方法で提供しているか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおける顧客セグメントと価値提案、次にチャネルと顧客との関係に対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、イノベーションプロセスや顧客経験ジャーニーなどが役立ちます。
フィージビリティのデザイン
フィージビリティとは、「その価値を生成するために必要なスキル、能力、技術を持ち合わせているか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおけるリソースと主要活動、次にパートナーに対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、インダストリアルインターネットや機械学習プロジェクトなどが役立ちます。
バイアビリティのデザイン
バイアビリティとは、「その価値を生成および提供する対価として、金銭的な利益を獲得することができるか?」という視点であり、ビジネスモデルキャンバスにおける収益の流れとコスト構造に対してズームインしていくことを意味します。これをデザインするためのアプローチとして、仮説指向計画法などが役立ちます。
(図4)ビジネスモデルデザインに関する4つの視点
日本においても、一部の組織内でビジネスモデルキャンバスが活用されるようになってきましたが、その活用領域はまだまだ限定的です。例えば、複数の事業部門をもつコングロマリット企業は、各々の事業部門におけるリソースや顧客セグメントを事業部門間で共有できないかをアセスメントするためにビジネスモデルキャンバスを活用することができます。
また、新入社員/中途採用社員または外部取締役に対して短時間で効果的に自社のビジネスモデルを説明するために活用することもできます。さらに、多くのコンサルティングファームやシステムインテグレーターにとって、自社のテクノロジーやソリューションが顧客企業のビジネスモデルのどの領域に貢献するのかを、顧客企業と共同で検討するために活用することもできます(図5)。
特に、プロジェクトメンバーの間で情報を共有したり、利害関係者(経営者や出資者)にプレゼンテーションしたりする際、ビジネスモデルキャンバスは数十枚に及ぶドキュメントよりも可視性に優れ、利害関係者の理解度が深まるでしょう。
(図5)ビジネスモデルキャンバスに関する8つの活用領域
注1)スイスのコンサルタント/strategyzer社の創業メンバーであり、ビジネスモデルキャンバスの考案者。
注2)書籍「The Smarter Startup」を参考。
【参考リンク】
ビジネスモデルデザイン講座(YouTube動画)
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