最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である。(チャールズ・ダーウィン)注1)
【対象とする皆様】
多くの企業やメディアの間で、デジタルトランスフォメーション(略してDXと呼ばれる)というコンセプトが注目されています。デジタルトランスフォメーションには、2つの定義があります。1つ目はマクロ経済的(社会経済全体のレベル)な視点から、「デジタルテクノロジーの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」というものです。2つ目はミクロ経済的(個別企業のレベル)な視点から、「デジタルテクノロジーを活用したビジネスモデルを通じて組織を変革し、業績を改善すること」というものです。ここでは、個別企業レベルにおけるデジタルトランスファメーションを取り扱っていきます。欧米の多くの企業経営者がデジタルトランスフォメーションを進めている背景には、新しいビジネスモデルをもつスタートアップの台頭、企業寿命の短命化などの要因に大きな危機感を抱いていることが挙げられます。
デジタルトランスフォメーションが焦点を当てるべきビジネスモデルの領域には、4つのタイプが存在します(図1)。
デジタル活用によるプロダクトやサービスの革新
これは、物理的なプロダクトやサービスのデジタル化(例.新聞、音楽、写真、広告)、既存のプロダクトやサービスのデジタルによる強化(例.センサーが装着されたシューズ)などを含みます。また、既存のプロダクトやサービスのアンバンドリング(例.電子書籍+電子書籍リーダー)、バンドリング(例.XaaS:プロダクトのサービス化)なども含まれるでしょう。
デジタル活用による顧客経験の生成
典型的には、これはオフラインとオンラインのチャネルを融合し、購買前から購買後に至るまでの新しい顧客経験、すなわちデジタル化時代における顧客経験ジャー二―を生成しようとする試みです。様々なタッチポイントテクノロジーを駆使しながら、購買や利用に関するデータを収集し、顧客ごとにパーソナライズ化されたオファリング(例.メッセージやプロモーション)を提供することによって、ロイヤルティの高い顧客を育てることが主な目的です。大手の小売り企業が推進しているO2O(オンライン・ツー・オフライン)やアマゾンゴー(レジのないコンビニ)は、このタイプに含まれます。
(図1)デジタルトランスフォメーションに関する4つのタイプ
デジタル活用によるオペレーションの変革
インダストリアルインターネットやサプライチェーンの再編成などは、この領域に含まれます。日本において進められているデジタルトランスファメーションの多くは、この領域が多いようです。ただし、オペレーション領域における従来のIT投資との違いが不鮮明であると指摘されることもあります。
デジタル活用によるプラットフォームの構築
プラットフォームと対比する概念にパイプラインがあり、端的に言えば直線的なバリューチェーン型のビジネスモデルを意味します。前述の3つのタイプは、主にバイプラインビジネスモデルのデジタルトランスファメーションに関するものです。一方、デジタル活用におけるプラットフォームの構築とは、既存のパイプラインにプラットフォームを付加したハイブリッド型のビジネスモデル(エコシステムプラットフォーム)への変革を意味します。例えば、アップルは製造業(パイプライン)であると同時に、プラットフォームをもっています。同様に、アマゾンは小売業(パイプライン)であると同時に、プラットフォームをもっています。
業績の改善という視点からは、オペレーションの変革はコストの削減、顧客経験の生成は収益の増加、プロダクトやサービスの革新およびプラットフォームの構築は新しい収益源の獲得に貢献します。これら4つのタイプは、各々が排他的ではないことを理解する必要があります。例えば、デジタル化されたプロダクトには、デジタルを活用したオペレーションの変革や顧客経験の生成も必要とするでしょう。
次に、デジタルトランスフォメーションが業績を改善する(または大きな評価を獲得する)大きな2つの経済的なドライバー(促進要因)を取り上げます。1つ目は、「限界費用ゼロ」という側面です。これは、1つ追加で価値あるものを生成/提供するためにかかるコストが限りなくゼロに近づくことを意味します。
例えば、自動車メーカーとSaaSソフトウェア企業を考えてみましょう。どちらの企業も、初期のプロダクト開発コストはかかります。自動車の場合、2台目の車を生産するための追加コストが発生し、その在庫コストもかかります。また、ディーラー経由で販売するためには販売手数料を支払う必要があります。一方、SaaSソフトウェアの場合、2つ目以降のソフトウェアの生産や在庫コストはほとんどかかることなく、オンライン経由で提供しているために販売コストも必要最低限ですむわけです。限界費用ゼロは、ビジネスモデルにおける供給サイドを説明するものです。
2つ目は、「ネットワーク効果」という側面です。これは、提供しているプロダクトやサービスの機能が同じであっても、利用者が増えれば増えるほど、利用者にとってのベネフィットが高まる経済効果を意味します。電話ネットワークは古典的な見本です。ネットワーク効果は、ビジネスモデルにおける需要サイドを説明するものです。
フィジカルとデジタル、パイプラインとプラットフォームの2軸によるマトリクスは、企業がどの象限に現在属し、デジタルトランスフォメーションを通じてどの象限に向かうべきかを検討する上で役立ちます(図2)。
(図2)デジタルトランスファメーションに関する4つの象限 注2)
業種や業態を問わず、デジタルトランスフォメーションに活用することができるテクノロジーとして、SMACIT(スマジット)という概念があります。これは、ソーシャル、モバイル、アナリティクス/人工知能、クラウド、モノのインターネット(IoT)という5つのテクノロジーの頭文字をとったものです。各々のテクノロジーは、ビジネスモデルを構成する要素に大きな影響を与えます。
ソーシャル
特定のトピックに関心をもつ、あるいは特定の専門知識をもつ個人や組織のグループやコミュニティであり、新しい顧客セグメントやパートナー、新しい顧客との関係を生み出す機会を提供します。
モバイル
いつでもどこでも(ユビキタス)情報を容易に収集することができる、消費者が常時携帯しているチャネルとして活用する機会を提供します。
アナリティクス/人工知能
多様なデータソースから収集された膨大なデータを顧客や企業の意思決定に役立てるための知識や洞察であり、価値提案の拠り所となる他社が模倣困難な知的リソースを生成します。
クラウド
膨大なデータを交換/蓄積/プロセシングする力を主要活動に与え、オンデマンドでデジタルサービスを提供/消費することができる価値提案を生成します。
モノのインターネット(IoT)
組織リソースとしてのヒト、モノ、データをリアルタイムに結び付け、その結果として主要活動に俊敏性を与えるだけでなく、価値提案としての知的なプロダクトを顧客に提供できるようになります。
デジタルトランスファメーションの推進に際し、これら5つのテクノロジーの少なくとも2つ以上を組合せながら、現行のビジネスモデルに対してデジタルスイッチを入れて活性化させていくイメージをもつことが重要です(図3)。
(図3)SMACITテクノロジーとビジネスモデル
例えば、2000年にDVDの宅配サービスからスタートしたネットフリックスは、SMACITテクノロジーを駆使しながら、ストリーミングサービスを提供するビジネスデルへの変革を推進し、直近の10年間で売上を10倍以上伸ばしてきました(図4)。ここでの重要なポイントは、ビジネスモデルの各々の要素に対して各々のデジタルテクノロジーが与える影響を理解し、デジタルビジネスモデルを構想することができる能力を身につけることです。
(図4)ネットフリックスのビジネスモデル
デジタルトランスファメーションにプロセスがあるとすれば、そのインプットは現在のビジネスモデルであり、アウトプットはデジタル経済において持続的に成長することが可能な変革されたビジネスモデルです。ここでは、そのプロセスにおける4つの大きなステージを示します(図5)。
認識する
このステージの大きな目的は、現在のビジネスモデルと外部環境をアセスメントし、デジタル時代におけるビジョンを描くことです。
選択する
このステージの大きな目的は、デジタルトランスファメーションの4つのタイプから最初に焦点を当てる領域を選択することです。
策定する
このステージの大きな目的は、SMACITをはじめとするデジタルテクノロジーを活用したビジネスモデル変革の青写真を描き、それを実現するための適切な戦略(ビジネスとテクノロジーの双方)を策定することです。
変革する
最後のステージの大きな目的は、リーダーシップ能力とデジタル能力という2つの大きな組織能力を身につけることによって変革を推進していくことです。
(図5)デジタルトランスフォメーション推進に関する4つのステージ
注1)英国の自然科学者チャールズ・ダーウィン。ただし、この言葉がダーウィンによるものかどうかは定かではない。
注2)書籍「プラットフォーマー」を参照。
【参考リンク】
デジタルトランスファメーション機会発見質問シート(ダウンロードPDF)
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