失敗ではない、うまくいかない1万通りの方法を発見しただけだ。(トーマス・エジソン)注1)
【対象とする皆様】
ハイブリッド型リーンスタートアップでは、イノベーションプロセスで取り上げたジョブ理論、ブルーオーシャン戦略、プリトタイピング、リーンキャンバスといったアプローチやツールのエッセンスを組合せながら、2つの大きなアイデアを創出していきます。1つ目は、これまでにない革新的なプロダクトやサービスに関するアイデアです。2つ目は、そのアイデアに市場性があるかどうかを安価で迅速にテスト/検証するための方法に関するアイデアです。最終的は、これら2つのアイデアを初期ビジネスプランとして1枚のチャートに描いていきます。
ハイブリッド型リーンスタートアップは、「定義する」「創造する」「検証する」「計画する」という4つのステージから構成されます(図1)。これらのステージは、多くの他のテーマと同様に直線的なものではなく、反復的(イテラティブ)なもの、つまりテスト/検証で学習したことを他のステージの改善に活かしていくというアプローチです。
(図1)ハイブリッド型リーンスタートアップに関する4つのステージ
最初に、ジョブ理論のエッセンスから、ターゲットとする顧客の課題に関する仮説を、状況、ニーズ、動機、既存の代替という4つの要素から構成されるステートメントで記述していきます。
ウォークマンを仮想ケースとして考えてみましょう。約40年前、ソニーの当時の井深大名誉会長が、出張中の飛行機の中でも音楽を聴けるようなものが欲しいというのが、ウォークマン誕生の経緯であるという説があります。これは、「出張中の飛行機の中で(状況)、リラックスすることができるように(ニーズ)、好きな音楽を聴きたい(動機)が、ラジカセ(既存の代替)では重くてかさばりすぎる」というような課題として設定することができます(図2)。
プロダクトやサービスのアイデアが既に頭の中にある場合であっても、逆算的にこれらのステートメントによる仮説を立ててみることが重要です。なぜならば、ジョブ理論とは人々が特定のプロダクトやサービスを消費する本当の理由を説明するものだからです。別の見方をすれば、このステートメントは、ニーズを満たす適切なプロダクトやサービスが見当たらないという非消費の状態(消費したくても消費できないでいる状態)を示すものでもあります。
(図2)ジョブ理論による課題の定義
ブルーオーシャン戦略におけるレッドオーシャンとは、顕在的な需要があるけれども多数のプロダクトやサービスが競合している市場を意味します。一方で、ブルーオーシャンとは、潜在的な需要があるけれども適切なプロダクトやサービスが存在しない市場(前述した非消費の状態にある市場)を意味します。
この戦略における顧客価値(バリューイノベーション)とは、顧客が支払うコスト(労力や時間を含む)よりも受け取るベネフィットが何倍も大きいことを意味します。
ここでは、ブルーオーシャン戦略で紹介されている4つのアクションフレームワーク(減らす/無くす/増やす/加える)を、既存の代替(例.ラジカセ)に適用してみます。ウォークマンは、既存の代替であるラジカセに対して、ボタンの数を減らし、録音機能/スピーカー/ラジオを無くすとともに、イヤホンを加え、ポータビリティを増やすというプロダクトのアイデアと考えることができます(図3)。
(図3)ブルーオーシャン戦略における4つのアクションフレームワーク
プリトタイピング 注2)とは、グーグルやスタンフォード大学をはじめ、多くのスタートアップや企業で活用されている、アイデアの市場性を安価かつ迅速にテスト/検証するための方法です。この言葉は、プリテンディング(見せかけること)とプロトタイピング(試作品を作ること)を掛け合わせた造語であり、リーンスタートアップで提唱されているMVP(最小実用プロダクト)の拡張版と考えて差し支えないでしょう。プリトタイピングの優れた点は、どのようなテスト/検証方法を活用すべきか、テスト/検証の結果をどのように評価すべきかを、客観的な数字で定量化できることです。
まず、前ステップ(創造する)におけるプロダクトやサービスのアイデアに需要があるかどうかをテスト/検証するための最も重要な仮説(市場の反応に関する仮説)を3つのレベルで記述していきます。例えば、ウォークマンの場合、「音楽好きな人の多くは、長時間の移動をこれからしようとする際に、ウォークマンに強い関心をもつだろう」というのが最初の仮説です。
次に、「音楽好きな人の少なくとも30%は、これから2時間を超える移動をしようとする際に、ウォークマンのプレゼンに10分間以上耳を傾けてくれるだろう」というように、最初の仮説に対して具体的な数値目標を入れていきます。
最後に、「羽田空港内のレコードショップにいる人の少なくとも30%は、これから2時間を超える飛行機による移動の出発待ち時間に、ウォークマンのプレゼンに10分間以上耳を傾けてくれるだろう」というように、2つの目の仮説をすぐにテスト/検証できるようなレベルまで具体化していきます(図4)。
(図4)市場の反応に関する3つのレベルの仮説
プリトタイピングでは、機械仕掛けのトルコ人、ピノキオ、ニセの玄関、ファサード、ユーチューブ、一夜限り、潜入者、ラベル貼り替えという8つのユニークなテクニックが用意されています(図5)。これらのテクニックを並行または順番に組み合わせながら、仮説をテスト/検証していくことが推奨されます。ここで重要なポイントは、アイデアに関する市場性があるか(または見込みがあるか)どうかを示す実際のデータを得ることです。
(図4)8つのプリトタイピングテクニック
テストを通じて得られた反応には、ポイントの高い順番から、金銭(例.予約金や注文など)、時間(例.顧客が付き合ってくれた時間)、情報(例.メールアドレスや電話番号)があります。一方で、意見や感想はポイントとはなりません。最終的に、この検証結果をベースとして、次のプリトタイピングを実行するのか、プロダクトやサービスのアイデアを改善するのか、そのアイデア自身をあきらめるのかを決めていきます。
ここまでのステップにおける2つのアイデア(革新的なプロダクトやサービスに関するアイデア、そのアイデアに市場性があるかどうかを安価で迅速にテスト/検証するための方法に関するアイデア)を1枚のチャート(リーンキャンバス)を活用して30分で整理することができます(図6)。リーンキャンバスもまた、テスト/検証による反復作業とともにブラッシュアップしていくことが重要です。このキャンバスは、最終的なビジネスプランのベースを提供することになります。
(図5)リーンキャンバスの生成
注1)米国のエジソン発明家、起業家。
注2)米国の起業家、イノベーター、講演家であるアルベルト・サヴォイア氏が考案したアプローチ。
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